銀座の取り組み

第5回 ありがとう物語  わすれられない笑顔  丸山 愛美

2018.03.24

カテゴリ:ありがとう物語

第5回 ありがとう物語 スポーツニッポン新聞社賞

    「わすれられない笑顔」      黒埼店  丸山 愛美

 これからいよいよ夏本番という頃、私は空調服の売り場を作っていました。その時入店された

五十代くらいのご夫婦に声をかけられました。このご夫婦との出会いで、私の中の販売員として

の大切にしたい思いが生まれたのです。

 ご夫婦のご用事はこうでした、「この店に、ファンで風が入ってきて涼しくなる作業服が売っ

ていると聞いてきたんだけだ、これだよね?どんなものか教えてくれる?」と、ご主人がにこに

こしておっしゃいます。

 ちょうどその売り場にいたのでそのまま空調服を手に取り、素材の違いや使い方など一通りご

説明しました。奥様がご試着されている間ご主人は、近からず遠からず見守っておられます。

「こういう服は着なれないから・・・」と、奥様がサイズに迷っておられたので、私がご主人にご

相談すると、「ハウス作業で共用の予定だけど俺はいいのでそっちのサイズに合わせてやって」

と、仰います。

 奥様は何度も試着を重ね、ご自分に合うサイズで購入を決められました。ただ、家に帰って組

み立てるのは難しいとおっしゃるので、宜しければ・・・と、全て繋げてセットし、そのまま着るこ

とが出来るようにお渡しいたしましょうか?と、ご提案しました。とても喜んでいただけたので、

後はゆっくりと洗濯の際のコードの付け外しや充電方法などをご説明しました。

 しかしお支払い中の奥様はなんとんく浮かない表情をされていたのです。・・・なんだろう、ご説

明やセッティングしたはずなのに、このモヤモヤする感じはいったいなに?私は疑問でいっぱい

でした。「ありがとうございます」の、挨拶の後、ご夫婦はレジから離れていきます。

 私は先程感じたモヤモヤを考えていました。私がひとりでやりきったと思っているだけで、も

しかしたらまだ不安があるのかもしれない、急いでご夫婦の後を追いかけました。

 店から出る寸前の奥様に声をかけ、自分の名刺を渡しました。「わからない事、何かありまし

たら・・・なんでもいいです!いつでもご連絡ください!」勢いで言ったので声も大きくなり恥ず

かしかったのですが、もう私にはこれしか思いつきませんでした。でも言い終わると同時にパッ

と、奥様のお顔に赤みが差しました。「あぁ!そうなのね!良かった、私上手く使えるか不安

で・・・機械なんてあまり触らないし・・・本当にありがとうね!」隣にいらしたご主人もほっと一息

つき、「俺が助けてあげられればいいのだけど、どうにも自信が無くてね・・・説明書も字が小さく

て読みづらいし助かるよ、ありがとう!」

 私はその時のおふたりの笑顔、安堵の表情を忘れられません。おふたりは何度か振り返りなが

ら車に乗り、お帰りになりました。

 もし私が、とりあえず買っていただいたし、後はお客様でなんとかしてくれるでしょう、と満

足していたらあの笑顔はいただけなかっただろうと思います。

 売って終わりではない。私には大きな衝撃でした。商品は私たちの手からお客様の手に渡りこ

れから先がある、生活の一部になっていく、という事を今更ながら実感したのです。数えきれな

いほどの商品が数えきれないほどのお客様の生活に加わると思うと、商品を入れた袋の持ち手を

お客様に差し出す気持ちも激変しました。

 売って終わりではない。ご夫婦から教えていただいたことは、これから使っていただけること

への感謝です。ご不安な事があればできる限りのことをする、安心してお使いいただきたい。そ

してどうかお役に立てますようにと、心を込めて「ありがとうございます」を、お伝えしたい。

そしてこの気持ちをこれからもずっとずっと大切にしていきたいと思います。

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